
こころとは普遍性の場〜 「いのちと祈り」を載せた「メディア=ご縁」づくり
メディアとはメッセージだ、とはカナダのコミュニケーション社会学者、マーシャル・マクルーハンの有名な言葉です。私自身 NY で経験した 9.11 以来、「ドイツ〜日本〜北米」 ... と三つの言語、三つの文化圏で過去 20 年余りに亘って活動してきた経験を活かし、国際間で独自のメディア&アートプロジェクトを推進してまいりました。今ではその活動のひとつひとつが、かけがえのない「物語の宝庫」となりました。写真や映像、そして言葉に託した一つ一つの物語(クロニクル)は、歴史から現在にいたる有限な時間の、無常の流れの中で、過去を映し、未来を照らす「いのち」の結晶として輝いています。
日本から世界へ、そして世界から日本へ。メディアアートリーグでは、地球文明の時代のコミュニケ−ションの「核」として、「こころ」の連帯を訴えていきます。映像や書籍、写真展など、メディアとアートを核に、マスマディアではできない、独自の「次元」を大切にしています。その次元とは、すべてが互いにつながり合い、与え合う果てしなき「生命の贈与循環」(清水博、場の研究所)を、文化発信の上で実践する場です。文化や伝統の違いがあるからこそ、その差異に目を向けるのではなく、与え合い分ち合うものがたくさんあることに、気づいてほしいと思います。「こころ」とは常に「人類のこころ」(クリシュナムルティ)」であると捉え、お互いがお互いの鏡であることに気づくならば、多文化であることの「さまざまな違い」が「豊かさ」の恩恵に変わります。メディアとは、こうした豊かさの「出会いの場」をつくりうるものです。
メディアアートリーグでは、私たちが日本から発信できる豊かさというものに目を向けます。それは例えば、宇宙の摂理へ、普遍性へと向うこころの世界です。「いのち」と「祈り」の表現といってもいいかもしれません。祈りが宗教儀式となり、芸能となり、技芸が道となる「心体」景観が日本文化の底流を貫いています。そして「心」が「体」によって見えるかたちになるからこそ、精神性を宿す素晴らしい身体芸術を生み出してきました。
こうした「普遍性へ向うこころ」を世界に紹介するために、「いのちと祈りー日本の『心体』景観」プロジェクトを、2002年にスタートさせました。大きな実績となったのは、前衛舞踏家・室伏鴻氏を撮りおろした写真作品が2006年度のヴェネチア・ビエンナーレ(ダンス部門)の公式イメージに選ばれ、その作品を含む個展「Men at Dance - from Noh to Butoh: Japanese Performing Arts Past and Present (能から舞踏へ:日本の身体表現の過去、そして現在へ)」を、2007〜2008年にNY 公立舞台芸術図書館(リンカーンセンター)にて開催したことです。同展は「NY舞踏フェスティバル」とタイアップ展として、日本を代表する新旧二つの身体芸術である、前衛舞踏と御能を対比させる試みになり、全作品55点をNY公立図書館の永久コレクションに寄贈しました。このことを契機に、日本に遺され、守られている世界的な無形文化遺産を、海外の図書館や美術館で発表し、寄贈する活動として、メディアアートリーグの活動趣旨が明確になりました。
そして日本のなかで、最も「普遍性」に近い場所があるとしたら、それは奈良だといえるかもしれません。奈良は、シルクロードの終着点として、有形無形のアジアの太古の至宝や伝統が遺され、現代へと受け継がれています。そして神々の「まほろば」(最高の住処)とされ、聖徳太子以来の神仏習合の歴史が息づいています。もとよりドイツ、アメリカと二つの国で永住権を取得し、西洋一辺倒だった私が、2002年より日本の精神文化を取材しているのも、奈良に未来へのヒントとなる「普遍性」を見つけたからに他なりません。その奈良との出合いについては、拙書「心のすみか奈良 いのちの根源なるものとの出合い」(武田ランダムハウスジャパン)として、発刊いたしました(2010年2月)。
さて「いのちと祈りー日本の『心体』景観」は、映像作品として、取材開始以来、8年の時を経て、その核となる部分を発表し始めました。Canon EXPO での個展「光の道:祈りと芸能のシルクロード 伊藤みろの作品世界」にてプレミア上映後、奈良・平城京1300年遷都祭の最終イベント「祈りの回廊 発展フォーラムにて上映されました。2011年以降はワシントンの日本大使館、国連ビジターギャラリー(2012年以降)などへ、日本の精神文化の最高の遺産を「人類遺産」として発表する提案を、引き続き準備中です。
多文化・多言語間を自在に横断する近未来のメディア環境においては、私たちが創る小さな物語も、相互理解を生むひとつの「窓」になってくれると信じています。相互の興味や関心、共感や感動を繋ぐ「ご縁」として、メディアがコミュニケーションの「場」となるのです。その時こそ、アートが「メディア=メッセージ」として、東西や南北の差異の壁を越えた、こころのコミュニケーションのための創造的な交流の泉になるのだと、信じる次第です。
平和とはこころから始まり、こころに還ること。そのことを「メディア=メッセージ」として、日本の太古からの精神文化を題材に、これから人生を賭けて訴えていきたいと思います。
伊藤 みろ(写真家、アーティスト/メディアアートリーグ代表) 2011 年 1月吉日